人の命は平等だと考えるテンマに、死こそが平等なのだと突きつけるヨハン。銃弾に倒れたヨハンをもう一度救うことで、テンマは自分の信じたものを貫き通します。
【あらすじ】
「人間はね……何にだってなれるんだよ」――ニナを苦しませたボナパルタのこの言葉は呪いの言葉などではなく、ニナを怪物にさせないためのやさしい呪文だった。
テンマとボナパルタ、ヴィムの三人の前についに現れたヨハン。ボナパルタはヨハンに心中を迫るが、生きていたロベルトに撃ち殺されてしまう。そのロベルトもルンゲとの死闘で深手を負い、息絶える。
対峙するテンマとヨハン。「あなたにとって命は平等だった……でももう気づいたでしょ? 誰にも平等なのは……死だけだ」
ヨハンは額に指差し、テンマに終わりの風景を見せる。
二人のもとに辿り着いたニナはヨハンに許すと告げ、テンマに撃つのをやめるように言うが、ヨハンはヴィムに銃口を向ける。「Dr.テンマは僕を撃つんだ……そうでしょ?」
そしてヨハンは頭を撃たれた。だが撃ったのはテンマではなくヴィムの父親だった。
ヨハンの命を助けることができるのはテンマだけだった。「あなたは間違っていない」とテンマに言葉をかけるニナ。すべての葛藤を振り払い、テンマはヨハンを救う決意をする。
「人間はね……何にだってなれるんだよ。君達は美しい宝石だ……。だから怪物になんかなっちゃいけない……」
これまで幾度となく出てきたニナの記憶では、ボナパルタは暗い口調と覆い被さるような手の動きだったから双子を怪物にする恐ろしいシーンだと思っていたのに、それがミスリードだったとわかるのがこのシーンです。
ボナパルタのやさしい言葉、ニナの頬を包む大きな手……MONSTERで好きなシーンのひとつです。バラの屋敷の惨劇を目撃し恐怖に震えていたニナが、ボナパルタに怪物になんかなっちゃいけないと言葉をかけられて震えを止める細かい描写もよかったです。
それにしても「何にだってなれるんだよ」という言葉だけでなく、ボナ博士の真意もヨハンに伝えることができたら結果は変わったかもしれないのにと思うと悲しいですね。
ニナが怪物にならずに済んだのは、ヨハンがニナの中の怪物を全部背負ったというのもありますが、ボナ博士のこの言葉もとても大きかったはずです。
こうして考えると、ヨハンばかりが貧乏くじを引いたようで、もう不憫としか言えませんね……。
ヨハンに「私と一緒に死のう……」と詰め寄ったボナ博士。
彼は彼なりのやり方で責任を取ろうとしたのでしょう。でもそれはただ終わりにするだけ。
(最終話ネタバレ→) (←ここまでネタバレ)
ボナ博士は報いを受けました。それも自身がつくりだした511キンダーハイム出身者の手によって。けれどそれさえもずっと覚悟していたのだろうと思うとただ悲しいのです。
満身創痍の中、執念でヨハンの所まで体を引きずりボナパルタを撃ち殺したロベルト。
終わりの風景を渇望しつつも見ることも叶わないまま息絶えましたが、雨粒を涙のように見せる演出が巧いと思いました。
しかしなぜロベルトには終わりの風景を見ることができなかったのでしょうか。
まず考えられるのは、望んで見られるものではないということ。というよりもそう望んだ時点でアウトのような気もします。
ふたつめは、ヨハンが終わりの風景を見せるというのは「唯一の愛情表現」(ニナの台詞より)でもあるからです。名前を与えてくれたヴォルフ将軍や、命を救ってくれたテンマ……ヨハンにとってはそんな特別な人達に自分自身の孤独と絶望を共有してほしいという思いが、終わりの風景を見せるという行為につながっているのでしょう。
……要するに、ヨハンはロベルトに愛着なんか全っ然湧いていないということなんですが(^^; ヨハンは駒の一つとしか思ってなさそう。哀れロベルト……。
ロベルトには見せなかった終わりの風景をテンマに見せるヨハン。
原作を読んだ直後のMONSTER全巻ネタバレ感想では、テンマが終わりの風景を見ていないかのように書きましたが、今ではやはりテンマは終わりの風景を見たのだと思っています。
そもそもテンマの見た終わりの風景とは何なのでしょうか。
それを考えるうえで外せないのがヨハンとの関係です。
1986年、テンマはハイネマン院長の命令を無視してヨハンを執刀しました。それまで院長の命令に逆らえず、ただ言われるがままだった彼が、初めて自分の意志で行動したのがヨハンの手術でした。
テンマにとって「人の命は平等」という思いを象徴する存在がヨハンなのです。
そのヨハンを撃つという行為は、テンマからすれば自身の信念を打ち砕くということに他なりません。ロベルトには躊躇せずに撃てたのに、ヨハンに対してどうしても撃てないのは、テンマのアイデンティティが崩壊することになるからです。それはテンマにとって名前を失うのと等しいこと。だからテンマには終わりの風景が見えるのでしょう。
怪物を生き返らせてしまったことに自責の念を抱きながらも、その一方で、ヨハンを殺害することが自己の信条と矛盾してしまうことにテンマはずっと葛藤していたのです。
それでもヨハンに銃口を向けるテンマに「あなたには見える……終わりの風景が……」と言うヨハン。風が吹きすさぶ荒野の風景をテンマに見せます。
ヨハンはすべてをわかっていたのだと思います。テンマの葛藤も苦悩も孤独もすべて。そしてヨハンも自分が抱いているそれらのものをテンマに理解してほしかったのでしょう。
二人が互いの心情を共有したのが、あの終わりの風景のシーンだったのだと私は解釈しています。
ニナに許すと告げられても、テンマに撃たれて死ぬことだけが唯一の望みかのように、ヴィムに銃を向けるヨハン。子供を盾にすればテンマでも撃たざるを得ないだろうと思ったのでしょう。けれどもこの行動の裏で、ヨハンはやはりテンマに撃ってほしくなかったのだと思います。第57話「あの日の夜」でアンナに「僕を撃てよ」と言った時と同じように。
「平等なのは死だけだ」とヨハンは言いました。けれども、それをテンマに実行させようとしつつも、自分の考えは間違っていると打ち破ってほしかったのだと思います。「人の命は平等」というテンマの信条の中に、自分自身も入れてほしかったのです。
あの時、ヨハンはテンマにすがっていました。いつも表情の変わらない彼が「そうでしょ?」とテンマに言った時、表情にならない表情が彼にはありました。笑顔を作ることも涙を流すことも演技ならできる彼も、あの時だけはそんな余裕さえなかったということです。
ヨハンはテンマに撃ってほしくなかった。あの表情を見るとそんな逆説もあり得るのではないかと思うのです。
結局ヨハンはテンマにではなく、ヴィムの父親によって撃たれます。ヨハンを救うことができるのはテンマしかいない。再びテンマに突きつけられる重い選択。
ここでニナはテンマにも許すと言います。
「私は許したい……。テンマ……あなたは間違っていない……。あの時も……これからすることも……」
ニナというキャラクターは、ヨハンとテンマ、二人を「許す」存在なんですね。
対してヨハンは、「死」をテンマとニナに突きつける存在。
そしてテンマはそんな二人を「救う」存在に位置付けられていると。
そうしてニナに許されたテンマは、自分の信じたものに立ち返り、ヨハンを救うのです。長い長い旅の末に出したテンマの答えに、静かな感動を覚えたシーンでした。
クライマックスということもあり、今回は緊迫感のあるシーンが続きましたが、ちょっと一息つく温かいシーンが、なくなった宝くじのことよりも夫婦の絆を再確認する夫婦のシーン。重いストーリーの中でも、こんな些細なエピソードを入れるところがMONSTERの良いところですね。
作画の面では、今回ヨハンもニナもその美しさが際立っていました。とくにヨハンはその眼差しひとつひとつが印象的で、見とれてしまいました。このブログ、ヨハンが原作より劣る作画だと何回かいちゃもんつけていたよーな気がしますが、今回の出来は満足です。雨がしたたって美しかー。
次回はついに最終回。私自身はもう放送は見ているので、毎週の楽しみがなくなって寂しいです。ともあれ、次回の感想も頑張りますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
今回の感想にも深く共感してしまいます・・・あの時ヨハンは、確かにテンマに自分を理解して欲しかった、同時に自分を殺さないで欲しかったのではないかなあと思います。でも彼は「殺すんでしょ?」という言い方しかできなかったのかなあと・・・。哀しい人ですよね・・・。
あと一回ですが、FINALCHAPTERの感想、お待ちしております!それでは、お邪魔しました~。
アニモン感想を楽しみにしていただけたことも嬉しい限りです。拙いうえに長文ですが、最終話の感想もよろしくお願いします。
テンマに殺されることを本心では望んでいないのに、あのやり方しかできなかったヨハンは本当に哀しいですよね。でもこんな複雑な彼だからこそ、台詞やわずかな表情の動きに惹かれてしまうのかも。彼のことを考え始めると色々と止まりません。
その回の印象的なカットを描いた絵や、鋭い視点の文章に唸らされることも多いミサキさんのMONSTER感想も楽しみにしています。「困憊ヒーロー」さんからはMONSTER萌えをたくさんいただいています!
MONSTERは漫画だけでなく、アニメも素晴らしいですよ。時間さえあればTSUTAYAなどで借りてみてはいかがでしょうか?
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