久しぶりの更新。その4は、ボナ博士ことフランツ・ボナパルタです。キャラ語りも4回目とくれば普通は別のキャラになるんでしょうが、私の中ではこの人は4番目のポジションに来るくらい、重要なキャラクターです。
↓↓↓以下はストーリーのネタバレですので、ご注意ください。『ANOTHER MONSTER』についても多少ですが触れています。
【フランツ・ボナパルタ/クラウス・ポッペ】
チェコスロバキア秘密警察に所属しながら、精神科医、脳外科医、心理学者と多くの肩書きを持つドイツ系チェコスロバキア人。いくつものペンネームを使い分ける絵本作家でもあり、『なまえのないかいぶつ』も彼の作品。
優秀な男女を掛け合わせ子供を人工的に作り出す計画の首謀者であり、ヨハンとアンナもその計画によって生まれた子供である。赤いバラの屋敷では朗読会と呼ばれる実験を行っており、511キンダーハイムも彼の構想が元となっている。
双子の母アンナに恋したことからバラの屋敷の惨劇を引き起こし、その後は本名のクラウス・ポッペを名乗ってドイツの小さな町でひっそりと暮らしていた。
チェコ編からたびたびニナの記憶に登場し、読者にラスボスかと思わせておきながら、最後はクラウス・ポッペとして意外な姿を見せてくれたボナ博士。テンマ、ヨハンに次いで好きなキャラクターだったりします。何故ならとても弱くて愚かな人だと思うから。普通ならそれは嫌う理由になるはずなんですが、それがこの人の場合は逆に惹きつける要素となっている気がするのです。
知能が高く、人を自分の思いどおりにすることができた秘密警察時代。他人の人生を踏みにじっても何とも思わず、まさしく怪物のような存在だった彼が一変したのは、実験対象であるはずの女性に恋してしまったことから。
彼女と双子の子供たちを守るためだけに三人を知る人間を皆殺しにし、その後は先祖の故郷であるドイツに亡命。これまで犯してきた罪から目を反らすかのように静かに暮らし、ヨハンとアンナの絵をただ描き続けていた……。
アンナと双子への想いから、彼の心境や価値観は大きく変わったけれど、それ以降、彼の行動は一貫して逃げる方向に向かっています。
チェコから、過去から、自分の犯した罪から……。
償う気持ちがあるのなら、グリマーさんが言っていたように自分のしてきた事をすべて明らかにするべきだったし、ヨハンに心中を迫るなんて以ての外だった。ヨハンがリーベルト夫妻を殺害した夜も決して逃げるべきじゃなかったんです。
でも彼は逃げることしかできなかった。
絵を描くことと、人を殺す(=存在をなくす)ことでしか、生き方を見出せなかった。
すごく、弱い人だと思います。ずるくて、勝手で、中途半端で。天才の名をほしいままにしてもそんな生き方しかできなかった哀しい人です。
でも人間らしい弱さを持つ人だからこそ、どうしようもなく惹かれてしまうのかもしれません。人間の業を背負ったこの人の存在が、この作品のテーマをより強くしているのだと思います。
また、彼のことを考えるたびに必ず出てくる言葉があります。それは「皮肉」という言葉。
テンマとヨハンにも当てはまるけれど、ボナ博士が一番この言葉を体現していると信じて疑いません。
実験のために人を道具のように扱っていた彼が、被験者のアンナに恋心を抱き、実験の“成果”であるその子供たちに愛情を向けることになる。
これは本人が一番思いもよらなかったことでしょう。他人の感情を奪い続けていた自分が、まさかその感情によって突き動かされることになろうとは。
計画の一環としてアンナが双子の父親を愛するように仕向けることは容易にできたのに、肝心の自分自身に対してはどんなに望んでもそれが叶わないなんて。
アンナへの手紙に書いていた「今はただ悲しい……」という感情も、それまでは抱いたことさえなかったものでしょう。絵本の編集者に最後に会った時、晴れ晴れとした笑顔だったという博士。恋を知って世界が変わって見えたんでしょうね。
感情を知る喜びと引き換えに、己の愚かさも思い知ることになる……。なんて皮肉。
これは想像ですが、ボナ博士がアンナへの恋心を自覚したのは、三匹のカエルで双子のどちらかを連れて行くか選択させ、ニナとアンナを車で連れ去った直後ではないかと考えています。
無表情で冷淡に選択を迫ったあの時の彼は、間違いなく実験のことしか頭になかったはず。
一方、母親としてやってはいけないことをしてしまったアンナは、あの後茫然自失の状態だったのではないかと思うのです。後に年老いた姿で後悔の念を口にしていた彼女を見ると、復讐を果たすためにしたこととはいえ、正気を保つのは難しかったのではないかと。
けれども彼女のそんな痛ましい姿がボナ博士に変化をもたらしたとは考えられないでしょうか。皮肉にもアンナをギリギリまで追いつめて初めて彼女への恋心に気づくことができたのだと。
単なる憶測に過ぎないけれど、博士とアンナの関係の変移を考えると、ターニングポイントがこの選択の時にあったというのはあながち間違っていないのではないかと思っています。
皮肉と言えば、名前をあれほど否定していた彼が、「エミル・シェーベ」や「ヤコブ・ファロベック」などたくさんの名前を持っているというのは皮肉以外の何物でもないですね。いや、名前を多く持っている分、名前の持つ意義を希薄にしているということなのかもしれませんが。
『ANOTHER MONSTER』によると、博士は自分と母を捨てた父親を憎んでいたということなので、もしかしたら父親と同じ姓を名乗ることを疎んじて数多くのペンネームを使っていたのかもなあと想像してみたり。(ルーエンハイムで本名を名乗っていたのは、その父親のことも受け容れられるようになったから? でもペンネームとして以前から使っているので違うかも…)
博士の台詞で一番印象に残っているのが、「人間はね……何にだってなれるんだよ」。
彼だから言えた台詞であり、『MONSTER』のテーマをまさに表している一言だと思います。
でも引っかかるのは、この言葉をなぜアンナにしか言わなかったのかということ。
彼ほどの知能を持つ人なら、三匹のカエルにひとりぼっちでいるヨハンが今どんな状況に陥っているのかわかりそうな気もするのに。感情というものに長い間執着せずに生きてきた人だから、ヨハンの心理状態までは読めなかったということでしょうか。
双子の母親を安全な場所に逃がしたり(彼女がフランスの修道院にいたのは、博士の手引きと想像)と、秘密警察や政府に知られないよう、自分と双子の母子の存在を消す工作にかかりっきりでヨハンのことまで気が回らなかったというのもあるのかもしれません。
ただフォローしてみると、双子特有の共有能力を信じていたという可能性があったように思いました。あの言葉を、アンナだけじゃなくヨハンも聞いているという前提で言っていたのかもしれないと。
ルーエンハイムに着いてからのニナは、姿を見せないヨハンの様子も事細かに理解していたし、『ANOTHER』でも幼少時代の二人に共有能力があったことが書かれています。
赤子の時から双子を見てきた博士なら、二人の能力のことを知っていても何ら不思議はないのです。
こんな推測をしたのは、「『君達』は美しい宝石だ……。だから怪物になんかなっちゃいけない……」と、アンナに対して『君達』と言っていたからですが、これはさすがに無茶な解釈でしょうか。結局、肝心なところは共有されず、ヨハンには言葉の意味を誤解されて受け取られてしまいましたしね……。
■ちょっと萌え語り
この人はあれですね、ずばり双子萌えなところが萌えなんですよ。
テレビで双子を見て、雨でびしょ濡れになりながら家を訪ねたり、ルーエンハイムで双子の絵ばかり描いていたり、ニナの名前を聞いただけで涙を流しちゃったり。彼にとって双子は、「美しい宝石」であり「永遠の命のような」存在ですからね。
その双子の絵ですが、あれってリーベルト夫妻と一緒にテレビに映っていた双子の姿そのままなんですよね。たぶんビデオだってなかっただろうし、あのテレビの映像を見ただけで、二人の服装までしっかり覚えて頭に焼き付けたんですよ。ずば抜けた記憶力をそんなことに駆使するボナ博士に萌え。
博士といえば甘党であることも忘れちゃいけません。紅茶とケーキを好む優雅な男と評されたボナ博士。たぶん作者は優雅さを強調したいがために紅茶を出したのであって、じゃあついでにセットでケーキも、というくらいの軽い気持ちなのかもしれません。
でも、でもですよ? 悪事の限りを尽くしていた秘密警察時代のあの人が、実はケーキが大好物でしたって、何なんですかその萌え設定。しかも『ANOTHER』ではとくにアンズ入りケーキがお気に入りだったとランケ大佐に暴露されてもう大変。これはちょっとかわいすぎるんですけど…!
アニメでは、大御所と言われる野沢那智さんの声でさらに萌え度がアップ。悪人時の渋い声がたまらんでした。
「いいんだ。名前など、いらないんだ」
「目的は私なんだろう……その彼の目的は」
あぁ、ステキすぎる……。何度も繰り返して聴いてはうっとりしてます……。
……キャラ語りが一番長いのがこの人ってどんだけ好きなんだ自分。でもこの人のことを思う存分語れてしあわせです……。
■関連記事
- 『MONSTER』と絵本について考察してみる
- 『MONSTER』 キャラクター語り その1(テンマ)
- 『MONSTER』 キャラクター語り その2(ヨハン)
- 『MONSTER』 キャラクター語り その3(ニナ)
(↓アニメ感想ですが、ボナ博士について考察しています。まぁ彼が登場する回はほとんど触れていますが)
この博士語り、まさしくどんぐりさんの博士に対する『愛』のなせる技ですよ~(*^_^*) 『秘密警察に属していながら、アンナに恋して赤いバラの屋敷の惨劇を引き起こし…』って、恋の感情をどうしていいのか分からずにそんな行動に走ってしまう博士…ただ『ひどい人』という言葉だけで到底片付くものではないですよね。
切ないですー(;_;)
同時に、『人に恋すること』の力の大きさも感じさせるなあって思いました。
そして、イラストも素敵ですね☆ この頃MONSTERを読んでいなかったから、また読もうかな~!!
えへ、博士への溢れんばかりの愛を感じ取っていただけたでしょうか……。ネットではこの人について書かれたものが少なくて寂しかったので、その分思いの丈を吐き出してみました~。
博士は本当に切ない人ですよね…。バラの屋敷の惨劇そのものを正当化することはできないけれど、その理由が大切な人たちを守るためだったというのがもう……。
>『人に恋すること』の力の大きさも感じさせるなあって思いました。
あんなに冷たかった博士が恋をしただけであれほどにも変われるんですもんね…。
MONSTERのテーマとして恐怖がよく言われますけど、私はむしろ人間の愛を描いているように感じました。
イラストにもお褒めの言葉、ありがとうございます!
MONSTERは読むたびに新しい発見があるので、読みごたえがありますよね。
わーボナ博士のイラストにクラクラします~v(@▽@) 渋いですね!
>『ANOTHER MONSTER』によると、博士は自分と母を捨てた父親を憎んでいたということなので
やっぱりそうでしたか!! アナモンは未だ読んでないので、よくは語れないのですが、ドイツ系チェコ人。しかもチェコに残って生きてきたドイツ系というだけで、私はボナパルタ博士の印象を、「2つに引き裂かれた心」とみました。
どこにも心の置き所のない者の悲劇。アイデンティティーが見つけられない者はまさに名前のない者といっても過言ではないなと。
だからこそ、なんにだってなれる。何者にもなれる。万能者になれる。でもそれは「自分」というアイデンティティーがない者にとっては、同時に何者にもなれないという現実を知ることにもなる。
ミスター『皮肉』ですねまさに!!(^-^;) 彼は両親をあるいはそのどちらかを憎んでいるのだと思っていました。何かに復讐したかった彼の歪んだ心が見えた。そうか父親を憎んでいたのですね。父親に捨てられたから、父親の名を捨てたんですね。
解りました!
アンナに恋をしたのは、「彼女に憎まれたから」だと私は思います。
そしてあの瞬間アンナが「自分の実験にのった」からだと思います。博士とアンナの心に共通した「復讐」と言う名の憎しみで2人は結ばれたんだと思います。博士にとって「実験」は2人の愛の営みにも似た共同作業だったんじゃないかな。
つまり「かいぶつ」は「2人の復讐という憎しみから生まれた子供」だったと……。
アンナが娘を選んで息子を残すのもお見通しだったし、残ったヨハンに絵本を渡した(と私は推測してるのですが)のも、博士の実験だと私は思ってます。すべて解って計算してのことだと。
何も与えられなかった者(腹をすかした者)が、いかにしてすべてを受け入れ取り込む(喰いつくす)か、そしてその負の種がどうやって彼の心で育っていくか全部解っていた。けど、「アンナ」という希望も植えつけたと。だから「実験」なのだと……。最後に残るものは……?
ああ……語りたいことが山ほどあります!
ボナパルタ博士は自分勝手でどうしようもない人だけど、可哀相な人ですよね。
憎まれれば憎まれるほど恋いこがれる……それは同時に、憎ければ憎いほど(対象が同じであれ別であれ)愛していた……ということ。ヨハンも同じですね。「アンナ」と「ヨハン」、「2人で生きていく双子」に恋するアンナと自分、妄想とも言える夢を重ねていたのかもしれません。
ところで漫画で、リーベルト邸へ双子に会いに来た博士が、双子の寝顔を見てるシーンで、ヨハンの方をよりいっそう愛おしく見つめている姿に「!」となりました。
やはり色んな意味で感慨深いものがあったのだと思います。だから心中したかったのでしょうね……。
おっと長文に……すみません! でも語り合えて嬉しいですv 次回は誰でしょうか? 楽しみです!(^-^)
またお邪魔させて下さいませ。
イラストの感想もありがとうございます。微妙にネクタイが曲がってるような気がしないでもないですが(^^; スーツにもこだわってそうな人なのに、ごめんね博士……。
アナモンはまだ未読とのことなのに、ドイツ系チェコ人というだけでそこまで考察しているyukiさんに感服。ANOTHERを読んだらもっと面白い考察になりそうです。ドイツとチェコの歴史的背景にも触れているANOTHERは、博士を語るうえでも外せないのでぜひ読んでみてくださいね。(そして感想も見たいです…!)
>アイデンティティーがない者にとっては、同時に何者にもなれない
わーそう来ましたか! 博士もアイデンティティのない人間だったんですね。名前をたくさん持っていたのも、人を自由自在に操る支配欲に取り憑かれたのも、確固とした自分を持っていなかったから……。なるほど~。そういう意味では、彼も「なまえのないかいぶつ」の一人だったということですね。
>博士とアンナの心に共通した「復讐」と言う名の憎しみで2人は結ばれたんだと思います。博士にとって「実験」は2人の愛の営みにも似た共同作業だったんじゃないかな。
はー…こんな解釈は思いも寄りませんでした。愛憎は紙一重とよく言いますもんね。憎悪で生きてきた博士にとって、憎しみを自分だけに向け、復讐のために「実験にのった」彼女が特別な対象になるのは自然なことだったのかも。
>「かいぶつ」は「2人の復讐という憎しみから生まれた子供」だったと……。
本当の怪物は、二人によって生み出された憎悪の感情……。すべてはこの二人から始まった出来事なんですよね。
>残ったヨハンに絵本を渡したのも、博士の実験だと私は思ってます。
私もそう思います。でもだからこそ、後に改心した博士がそんな状態のヨハンをそのまま放置したのが不思議なんですよね。一人残したヨハンのことも実験に含まれているのなら、バラの屋敷で惨劇を目にしたニナ以上に危険な状態に陥っているのは目に見えているのに。
yukiさんは、それさえも実験だったとお思いでしょうか? ニナには怪物にならないように言葉をかける一方で、ヨハンに何もしなかったのも実験のためだったと……。
その解釈のほうが妥当な気もしますが、私はやっぱり、ヨハンを怪物にしようなどと博士はもう思っていなかったと信じたいです。
>ヨハンの方をよりいっそう愛おしく見つめている姿
これは三匹のカエルに残したヨハンのことをずっと気にかけていたという証しだと思っています。実験の成果としてではなく、ヨハンには何もしてやれなかったという負い目からいとおしそうな表情をしているのかなと。
…ボナ博士について語るとどうしても長くなりますね~。ほんと謎に包まれたお方です……。
こちらこそ語り合えて嬉しかったです。ゆっくりネットできるようになったとのことなので、yukiさんのブログ&サイトの更新も楽しみにしています!
次回……は特定のキャラ語りではなく、主役三人の関係語りにしようかなあと。(三人についてまだ語り足りないらしい…)
どんぐり(2017/01/01)
どんぐり(2016/12/17)
どんぐり(2016/12/17)
名無しさん(2016/12/10)
ルフィ(2016/12/10)
ルフィ(2016/12/10)
どんぐり(2016/12/03)
ルフィ(2016/11/30)
どんぐり(2016/11/26)
名無しさん(2016/11/20)
どんぐり(2016/09/15)
みかん(2016/09/13)