二次創作やツイッターで呟いていたものをきちんとまとめたくなったので、備忘録も兼ねてヨハン考察です。双子が誕生してから時系列に追って書いているため、非常に長いです。
当然ネタバレ、年月など『ANOTHER MONSTER』を参考にしている箇所もあります。年齢は多少前後しているかも。人名や巻数などは完全版ではなく旧単行本に沿っています。わかりにくいエピソードのみ、巻数の注釈あり。内容が複雑だけに、間違いを後でこっそり訂正することもあるかもしれません。
腐向けではありませんが、キャラ好きが高じた結果、想像・推測を越えて妄想になっているところもあります。苦手な方はご注意ください。
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◆1975年5月(※3月) 誕生(チェコスロバキア・プラハ)
優性遺伝子創出計画の実験により、フランツ・ボナパルタの監視下で双子誕生。「名前を考えたの」と母親が懇願するも、ボナパルタに双子の命名を止められる。用済みとなった父親はおそらく死亡。(16巻)
※追記:『ANOTHER MONSTER』では双子の誕生月が5月のように記述されているが、漫画本編ではおそらく3月辺りを想定した描写となっている。
- 誕生日前、ニナの自宅庭に咲いていたミモザ。ドイツでは春を告げる花として、開花時期は一般的に3月頃。
- フォルトナー夫妻・マウラー記者殺害事件(=双子の誕生日)から5か月後、季節は夏になっている。誕生日が5月なら秋になっているはず。
- 5巻、テンマとDr.ギーレンが待ち合わせをしたのがカーニバルの時期で、ドイツではおよそ2月に開催されるイベントである。(毎年イースターによって日付は変わる)
- その直前のトルコ人街焼き討ち事件は1996年確定なので、1月か、少なくとも2月に焼き討ち事件は起こったとみるべきで、3月ではない。
- さらにテンマの台詞には、その10か月前が双子の誕生日だとある。つまり焼き討ち事件が1996年1月なら、フォルトナー夫妻殺害事件(誕生日)は1995年3月になる。
以上を踏まえると、双子の誕生月は5月ではないということに。
うう、双子の誕生日がはっきり知りたい!
「聖ハドリアヌス祭の仮装行列」を検索しても何の情報もなく、謎すぎる…。
・なぜ誕生日を覚えていたか
ところで、過去の記憶を忘れていた双子が、なぜ誕生日だけは正確に覚えていたのか。
多分、何があっても誕生日を忘れないことで、ヨハンもアンナも互いの存在を確かめ合っていたのだと思う。ただ生まれた日、というだけでなく、二人にとって誕生日は双子の存在証明でもある。
・絵本と双子
16巻のペトル・チャペックの回想によれば、ボナパルタと初めて対面した時(1960年代とみられる)、絵本『なまえのないかいぶつ』は既に創作済み。つまりヨハンとアンナが絵本のモデルという訳ではないらしい。
でもだからこそボナパルタには、滅多に生まれないだろう双子が他の実験対象よりも数段特別な存在に見えたのかもしれない。
後にルンゲ警部が発見した、妊婦姿の母親や生まれたばかりの双子を描いたスケッチ(12巻)にもそれが表れていると思う。この母子三人以外に描かれた人物のスケッチはあまりなさそう。
ちなみに双子は、1958年生まれのテンマとは17歳差。双子が生まれた時、テンマは高校三年生(双子が3月生まれなら高二)。将来について悩んでいた時期だろうけど、ハイネマン院長の論文(といいつつ別人のもの)はいつ頃読んだんだろうか。
◆1976年 潜伏生活(チェコスロバキア・プラハ/三匹のカエル)
双子の母親が親友のヘレンカ・ノヴァコバー(マルゴット・ランガー/西ドイツ)に手紙を出す。(12巻)
手紙の内容から早い段階で母子三人は三匹のカエルに隠れ住んでいたことがわかる。『ANOTHER MONSTER』によると反政府運動家の人物による協力もあったとのこと。
ただ、ボナパルタが幼い双子(2~3歳くらい?)を描いたスケッチ(12巻)が存在するので、おそらくこの時も監視は続行している。
というかボナパルタがわざと逃がして泳がせていたんじゃないだろうか。母親が名前を表立って付けず、双子を同じ姿にさせることさえも予測していて、来たる実験のためにその機を窺っていたのでは。外道すなぁ。
◆1980年 小さな変化(プラハ・三匹のカエル/双子5歳)
ハンス‐ゲオルグ・シューバルトがヘレンカ・ノヴァコバーを捜して、手紙を元に三匹のカエルを訪れる。(12巻)
知らないおじさんが突然来たのでお母さんの後ろに隠れる双子が可愛い。でも無表情で顔は怖い二人。
・女装していないヨハン
注目するのは、回想でのヨハンは部屋で女装していない点。ボナパルタのスケッチでも女装していない幼いヨハンが描かれている。
多分、シューバルトの訪問にもっと隠れなければと危機感を抱いた母親が、これをきっかけにヨハンに女装させることにしたのでは。ヘレンカに手紙を出したのも母親自身だけれど、人目を避けた生活を続けて、疑心暗鬼になったのかも。
・母子の関係
15巻、Dr.ギーレンの催眠療法で過去を思い出すニナ。母に対して「お母さん……やさしい……歌声……豆スープの匂い……」と呟く。少なくとも母子三人の生活は慎ましくも穏やかなものだったことが窺える。
その一方、父に対しては「セーフのグンジン……お父さん……コロサレタ……」と呟いている。
もしかしたら母親は、普段から自分たちを追う「怪物」の存在を双子に話していたんじゃないだろうか。双子の父親を殺した怪物を許さないと言い募り、怪物の恐ろしさを植え付けていたのでは? こうして双子の中でもどんどん大きくなっていく怪物。
表立って双子に名前を与えず、さらにヨハンには女装させることで、妹と自分は同一の存在、とヨハンが思い込んでしまったのが悲劇の始まり。
・シューバルトとの出会い
この時点でシューバルトとヨハンが出会っていた点にも注目。
後にミュンヘンでシューバルトを標的にし、ヘレンカ(マルゴット)と同居する訳だけど、この記憶も実はうっすらとあった? 511キンダーハイムを経て記憶が失われている可能性も高いけれど、すべてが偶然とは思えない。
◆1981年 母親の選択(プラハ・三匹のカエル/双子6歳)
母子三人の前にボナパルタ、ペトル・チャペックらが現れ、双子の片方を屋敷に連れて行くことを要求。母親は逡巡の果てに娘を差し出し、娘と共に赤いバラの屋敷へ連行される。
母親がどこに連れ去られたのかは不明。
・実験の目的
寸分違わない姿の双子を母親がどちらか一方を選ぶ、というのがボナパルタの実験。双子が多少大きくなるまで母子を泳がせ、人目をごまかすためヨハンが女装させられることも承知で、この機会を待っていたんだと思う。
さらに「これは実験だ」と一言口にすれば、ボナパルタへの復讐を果たす怪物を作るため、母親が受け入れることもわかっていたんじゃないだろうか。外道すなぁ。
ボナパルタは怪物になるのが兄か妹かは重視していないと思う。バラの屋敷に連れていくほうなのか、一人残して『なまえのないかいぶつ』を心に深く刻んだほうなのか。
ひとつ言えるのは、連れ去った時点ではボナパルタは母親への恋心を自覚していないだろうということ。後になってどれだけ後悔したんだろうか……。
・なぜか何も置いていない部屋
それから気になるのは、三匹のカエルの部屋に家具などが何もない点。12巻のシューバルトの回想では部屋にも椅子やチェストが置いてあり、生活感があったのにどういうこと? ひょっとしてボナパルタが来ることを察知していて別の場所へ引っ越す直前だった?
◆1981年 赤いバラの屋敷の惨劇(プラハ郊外・赤いバラの屋敷)
連れ去られたアンナ(ニナ)は屋敷内の上下左右感覚がない真っ暗な部屋に監禁される。その後、ボナパルタの心変わりにより、実験に関わる者すべてが広間で毒殺される。
ボナパルタは現場を目撃して放心状態のアンナに「今見たことはみんな忘れるんだ。遠くへ逃げるんだ……できるだけ遠くへ……。人間はね……何にだってなれるんだよ。君たちは美しい宝石だ……だから怪物になんかなっちゃいけない……」と言葉をかけ、解放する。
連行から屋敷の殺戮までの期間は、食事の回数から推測すると、1週間から10日くらい? アンナは「朗読会」に参加したという訳ではない。
・ボナパルタと双子の母親の関係
実験に荷担し、闇に堕ちた母親を目にして、ボナパルタは初めて彼女への愛情を自覚したんだろうか。感情が窺えない無表情なままの彼女の絵を描き、読まれることのないラブレターを絵の裏に隠して。
この後の母親の足取りが不明だけど、後に南フランス、修道院の療養所にいることが判明。やっぱりこれもボナパルタが支援・援助していたんだろうか。弟子のチャペックが関わっていた可能性もあるかな。
・ボナパルタとチャペックの関係
また、隠蔽のためにボナパルタ、母親、双子の身代わりとなる4体の遺体もチャペックの協力で工作していた模様。ボナパルタのためなら何でもやるんだなチャペック……。まるでヨハンとロベルトのような関係。
◆1981年 ただいま、おかえり(プラハ・三匹のカエル)
徒歩で三匹のカエルに戻ったアンナを、胸に『なまえのないかいぶつ』を抱いたまま、妹そっくりの姿で迎えるヨハン。赤いバラの屋敷での出来事を何日にもわたって聞いていく。
わずか6歳ほどの子が車で連れ去られたのに、その帰りの道筋をしっかり覚えているアンナもやっぱり只者じゃありません。そもそも真っ暗な部屋に閉じ込められたのもほぼ拷問なのに(普通なら発狂する)、メンタルの強さが驚異的。
・三匹のカエルでのヨハン
ヨハンが持っていた『なまえのないかいぶつ』はいつ誰から受け取ったのか。母親とアンナを連れて行く時にボナパルタがヨハンに手渡した? それもやはり実験のため? 屋敷に連れていった子、残された子、どちらが怪物になってもいいように……。
『アンナを待ってたんだ。絵本を読みながら……』
11巻、511キンダーハイムのテープに録音されていたヨハンの声。これは妹が連れ去られてからのことを指している様。たった独りで絵本を読み続け、ふたつに分かれたなまえのないかいぶつを自分自身の境遇と重ねていったのは想像に難くない。
18巻、ニナの脳裏に蘇る、三匹のカエルでの二人の会話。「ごめんね」とアンナに謝るヨハンと、「なんで泣くの……? 泣かないで!」と口にするアンナ。
この時、アンナは屋敷の体験を、ヨハンは絵本を読んで互いに聴かせた。相手の話を自分が体験したようにすり替え、二人は過去の記憶から逃れようとした。
◆1981年~ 二人きりの逃避行(チェコスロバキア)
三匹のカエルに火を放ち、二人は逃亡。ヨハンにとって初めての殺人。以後二人でチェコスロバキアを彷徨い続ける。(16巻)
・怪物からの逃避行
この逃避行は怪物から逃れるため。
「遠くへ逃げるんだ、できるだけ遠くへ……」とボナパルタがアンナにかけた言葉は、もう自分たちのような人間に捕まってはならないという思いから来たもの。
でも、アンナを通して間接的に聞いたヨハンはそうは取らなかったはず。むしろ怪物からの脅しにも似た、恐ろしいメッセージに聞こえたに違いない。
ボナパルタ→アンナ→ヨハンへと伝わっていくうちに一種の伝言ゲームのような状態になり、その結果ヨハンの中で誤解が生まれたのでは。つまり「怪物から逃げなければならない」と。
逆に一番肝心の「君たちは美しい宝石だ。だから怪物になんかなっちゃいけない」を、混乱していたアンナはヨハンに伝えていなかったんじゃないだろうか。ヨハンには恐ろしいボナパルタの印象だけが刻み込まれた。
・なぜ大人たちを殺し始めたか
三匹のカエルから逃げてきた双子に優しく接する、ある夫婦のシーン(16巻)。「警察に電話しよう」ということになった途端、ヨハンが夫婦に近付いて殺害する(多分毒殺?)。
おそらく双子に関わった大人が警察に連れていくことをほのめかしたり仕草を見せたりすると、そのたびに殺してきたんじゃないかと思う。すべては怪物につかまらないために。
ちなみに、後にリーベルト夫妻をヨハンが殺害した時、アンナが口にした、「ヨーゼフおじさんやクララおばさんが死んだのも……シュレーゲルさんが死んだのも……ベーデガーさんが死んだのも……全部お兄ちゃんがやったの!?」という台詞。(14巻)
彼らはこの逃避行で出会った人々だろう。みんな名前がドイツ名なのでドイツ系なのかも。ドイツ語もこの時期に習得した?
ただ双子の母親がドイツ語圏のモラヴィア出身、しかもドイツとチェコのハーフなので、三匹のカエルに住んでいた時点でドイツ語を話せた可能性はあるかも。
殺害の方法はやはり毒殺だろうか。だとすれば、赤いバラの屋敷で怪物がやったのと同じ殺し方を模倣したのかもしれない。
いずれにしろ保護してくれた大人を次々と殺していくのは、怪物が追ってこないように足跡(存在した形跡)を隠すため、そして絵本『なまえのないかいぶつ』をなぞるため。
アンナに言った「いい計画があるんだ」は多分これ。ヨハンはなまえのないかいぶつの物語を演じているだけ。彼の行動原理は赤いバラの屋敷の怪物と絵本。
その人間を知る者、その人間の過去を知る者、すべてを消し去れば、実在の人間は架空の人間になることができる――。 赤いバラの屋敷の惨劇となまえのないかいぶつから怪物の生き方を刷り込まれ、さらに実行できる能力が元々ヨハンには備わっていた。
◆1984年 ヴォルフ将軍との出会い(チェコスロバキア・東ドイツ国境)
荒野で二人倒れていた所をヴォルフ将軍に保護される。所持していた絵本『なまえのないかいぶつ』から名前を取り、ヴォルフ将軍が名付け親となる。
ヨハンを見出したのが12年前とのヴォルフ将軍の発言(4巻・1996年)から、1984年だったと推測される。
・「終わりの風景」の原点
たった子供二人で荒れ果てた土地を、しかも共産圏の国境を越えるなんてかなり危険なこと。聡明なヨハンがわからないはずがないのに、それでも決行したのは、やはり怪物から逃げるためだろうか。
この時体験した絶望的な状況を「終わりの風景」として心の奥深くに焼き付けた。
「あなたも今にわかりますよ」
目が覚めた時、ヴォルフ将軍に「今の気分はどうだね?」と尋ねられた時のヨハンの反応。もうこの時から既に終わりの風景を見せる気満々。
ヨハン以外に誰も名前を呼んでくれる人がいない状況に陥らせ、自分と同様に孤独にさせること。それが、ヨハンにとっての唯一の愛情表現。
何しろ一度死んだはずの命を助けてくれた「恩人」。そして「名付け親」。しかもよりにもよって名前が絵本の「ヨハン」。ヨハンがヴォルフ将軍に執着するには充分だったはず。今まで保護してくれた大人たちとは明らかに異なる特別な存在だったのかもしれない。
・ヨハンとアンナ、二人の名前
ヴォルフ将軍はアンナの名前に関しては一切触れていないものの、おそらく絵本に登場する「Johann」を分割して「Johann」「Anna」にしたと自分は解釈してる。ひとつの名前からふたつに、というのも『なまえのないかいぶつ』からの影響か。
◆1984年 511キンダーハイムへ(東ドイツ・東ベルリン)
ヴォルフ将軍によりヨハンは511キンダーハイムに、アンナは別の47孤児院に入れられる。ヨハンの底知れぬ才能に気づいた幹部たちが薬物投与による尋問を行う。(11巻)
女の子のアンナは511には入れられなかった模様。
ヨハンはいつからヴォルフ将軍の周囲の人間を手に掛けるようになったんだろう。ヨハンを恐れて511に入れた可能性はある? 一緒に写っていた写真にそんな様子はないから、まだヨハンの本性には気づいていない?
◆1985年 511キンダーハイム壊滅(東ドイツ・東ベルリン/双子10歳)
ヨハンの策略により511キンダーハイムの教官・子供含めた全員が殺し合い、火事で焼失する。生き残ったのはヨハンとクリストフの二人のみ。(16巻)
ハルトマンがわずか10歳の子供と発言しているので、この年に起こったと推測。511には約1年ほどいたのか。アンナと無理やり離されてヴォルフ将軍を恨んだりしたんだろうか。
・ヨハンが511を崩壊させた理由
それはアンナの記憶を失うのが怖かったから。
ヨハンが一番怖いもの、それはアンナを忘れてしまうこと。(11巻・511の録音テープ)
崩壊させる頃には既に511の教育プログラムによって、絵本のことも三匹のカエルのことも詳細な記憶は忘れてしまったと思われる。ひょっとしたら赤いバラの屋敷の怪物のことも忘れていたのかもしれない。怪物が家に訪ねてくるまでは。
ところで、クリストフにも「計画」のことを話していたとのこと。それは511が崩壊してから、クリストフがジーヴァーニッヒ氏の許に養子に出されるまでの間の話だろうか? 計画を楽に遂行できるように、思い通りに動く駒を必要としたのかも。
◆1985年~1986年 亡命(東ドイツ→西ドイツ)
リーベルト夫妻が双子を養子に迎え入れ、その後、西ドイツに亡命。夫妻は当初ヨハンだけを養子にするつもりだったが、ヨハンの希望でアンナも養子に加えられた。
以下、妄想。もし夫妻の亡命が、ヨハンが焚きつけたものだったとしたら?
この時点でヴォルフ将軍はもう西ドイツに亡命してそうなイメージなので、ヴォルフ将軍を捜し出すため、西ドイツに越境するよう言葉巧みにヨハンが仕向けたというのもありそうかなと。いや、これはさすがに考えすぎかもしれないですが。
◆1986年3月(※9月) あの日の夜(西ドイツ・デュッセルドルフ/双子10歳(9月なら11歳))
リーベルト夫妻がマスコミの前で記者会見。夫妻と共に佇む双子の姿をテレビで見たボナパルタ(クラウス・ポッペ)が家を訪問。
その夜、ヨハンは銃で夫妻を殺害し、犯行を知ったアンナに頭部を撃たれる。二人はDr.テンマのいるアイスラー記念病院に搬送される。
※追記:『ANOTHER』では3月とあるものの、漫画内では9月と考えられる描写がある。2巻、「双子の兄妹が私の病院を抜け出してからミュンヘンに兄が姿を現すまで(1987年3月まで)、半年以上の空白期間があるんです」とのテンマの発言から。
・物語の始まり、運命の夜
ボナパルタが家にやって来たことで、ヨハンは怪物に捕まる恐怖を再び思い出したんじゃないだろうか。
「今日は特別さ……。だって今日は……怪物がやってきたんだ……。怪物が僕らを連れにやってきたんだ……」
怪物から逃げるために、痕跡を残さないように、だからリーベルト夫妻を殺害した。
とはいえ、今までの殺人は妹にも知られず用意周到にしていたのに、銃を安易に使用してアンナに見つかったのは、やはり平静を失っていた証拠なのかも。銃はリーベルト夫妻が亡命する時に所持していたものだろうか。
「僕を撃てよ」
取り乱してヨハンを責めるアンナに対し、額を指差して淡々と笑みを浮かべるヨハン。その行為は、東のかいぶつが西のかいぶつを食べてしまった『なまえのないかいぶつ』の逆を思わせる。
かいぶつのように振る舞いかいぶつのように生きてきたのは、怪物から身を守るためだった。でもアンナが怪物化したヨハンを許さないこともわかっていたんだろう。だからこうするしかなかった。
「撃ったら逃げるんだ……怪物につかまらないように逃げるんだ。大丈夫……僕が死んでも君は僕で……僕は君……」
自分に言い聞かせているようにも見える、ヨハンの言葉。静かな表情の裏で、アンナに本当に言ってもらいたかったのは……。
・変わり果てた怪物の姿
ボナパルタはもうクラウス・ポッペとしてルーエンハイムにいたんだろうか。ヨハンが怪物に成長してしまったことに恐れおののき、逃げ帰ることしかできなかった、かつての怪物。自らの過ちから逃れるように、この時の双子の絵を何枚も描き続けた……。
ちなみに作中、テレビのニュースで二卵性双生児と紹介されていたけど、実は一卵性の可能性もあるのでは?
本来、男女の双子は二卵性が一般的だけど、ごく稀に一卵性の男女の双子も実在するそう。もしあの双子がそんな希少な存在なのだとしたら、ボナパルタがあれだけ双子に執着していたのも納得行く気が。成人してもアンナそっくりに化けられるヨハンを見ると、その可能性も少なくないのではと思う。
◆1986年3月(9月) Dr.テンマとの出会い(西ドイツ・デュッセルドルフ/双子10歳(11歳))
テンマの手術は成功。だが院長の命令に背いたことでテンマは窮地に立たされる。彼の恨みを晴らすように、ヨハンはハイネマン院長ら三名を殺害するとアンナを連れて病院を脱走。着の身着のままの所をタクシードライバーのラインハルト・ディンガーに拾われる。(16巻)
『ANOTHER』によると院長殺害は3月31日。入院していた期間は数週間ほどだろうか。
目覚めた後、Dr.ボイアーらによってアンナと対面するヨハン。叫び声を上げ卒倒するアンナに、涙を流して手を差し伸べる。
この涙にはどんな感情が込められていたんだろう。アンナと再び出会えた喜びか、拒絶された哀しみか、唯一心を許す半身への渇望か……。
・テンマとヨハン
院長にもエヴァにも見捨てられ、失望したテンマの行き着いた先が、ICUで眠るヨハンの許だった。ヨハンが意識を取り戻したことにも気づかず、「あんな奴死んだほうがマシだ!」と呪詛のように吐き捨てる。
アンナに銃を撃たせて死ぬつもりだったヨハン。執刀したDr.テンマの存在はもう一人の命の恩人、ヴォルフ将軍を思い出させたに違いない。保護してくれたこれまでの大人たちとは違い、この二人は怪物の生みの親のようなもの。だからヨハンは彼らにだけ「終わりの風景」を見せていく。
再会時にヨハンが言う「せめてもの恩返し」という言葉に嘘偽りはないと思う。怪物が怪物の方法で恩人に報いただけ。実際テンマの件がなければ院長たちは殺されることもなかったのだろう。
・毒物の入手方法
最も気になるのがその殺害方法。どこでどうやって筋肉弛緩剤(筋弛緩剤)を手に入れ、それをキャンディに含ませたのか。
筋弛緩剤なら病院で厳重に管理されているのが普通だけど、鍵を掛け忘れたり警備が手薄になった所をヨハンが見逃さなかったということだろうか。ググっただけでも筋弛緩剤の紛失事件は意外と多いので(gkbr)、病院側のミスを突いたというのはあるのかもしれない。
・毒入りキャンディを口にしたタイミング
昼間、ヨハンがベッドで眠っている傍ら、院長たちがプレゼントの飴を勝手に開けて口に放り込むシーン。一見いかにもこの時のせいに見えるけど、院長は夜、自宅の書斎で亡くなっているので、それにしては死亡時刻が遅すぎるような。だから昼間の場面ではまだ飴に毒物は入っていなかったとみるべき。
そこで思うのは、4巻『残された女』の章。ヨハンと院長が一緒に写っている写真をエヴァが持っていたことが明らかに。
つまりヨハンの写真を撮ったこのタイミングで、毒入りキャンディを院長たちに渡していたんじゃないだろうか。それも澄ました顔で何気なく。その後しばらく時間が経ってから、軽い気持ちで口にした飴が原因で……ということなのかもしれない。
◇ ◇ ◇
テンマ登場までどうしても書きたかったので、こんなに長くなってしまった。ほんとなんという波瀾万丈かつ激動の人生……。こんな調子で次回に続きます。
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